ヒップホップを経験した時代からみた、永遠に完成しないソウル&ファンクの大辞典。
有名すぎて語る必要も無いような気もするが、特に感銘するのが、ニューソウル運動と時を同じくして発表された本作が、アフロ・アメリカンとしての現実を語りながら、音楽家としてアフロ・アメリカンであることにこだわらず、高い視点から作られていることだ。
スティービー・ワンダーは、マーヴィン・ゲイの“What's Goin On”やスライ&ザ・ファミリー・ストーンに影響を受けて、社会性を強めていったといわれているが、彼の作品づくりに対する姿勢が、ニューソウルの流れにあっていたと思う。スティービーは、録音のほとんどをひとりで行い、まるで画家が絵を完成させるように、個人の思いを少しずつ積み重ねて、作品を完成させていた。他のどのアーティストよりも、本人の意思が直接アルバムに反映していたということだ。スライ・ストーンも同傾向にあったが、彼の場合、社会的圧力が強すぎたためドラッグに溺れていってしまった。スティービー・ワンダーは個人の内面を見詰めて社会を表現したしたため、純粋に芸術活動に没頭できたのだろう。
『インナーヴィジョンズ』は、スティーヴィー・ワンダーの芸術性が爆発していた時期であり、全音楽ファン必聴の作品でもある。
また『インナーヴィジョンズ』を含むいわゆるスティービー・ワンダー3部作の“Talking Book(トーキング・ブック)”、“Fulfillingness’ First Finale(ファースト・フィナーレ)”と、2枚組の“Songs in the Key of Life(キー・オブ・ライフ)”は、どれも甲乙つけがたいので、あわせて聞いてほしい。
Producer: Stevie Wonder
1973年