全米がテレビに注目する一大イベント「スーパーボウル」。各企業が大金を費やし、社運をかけて制作したCMを放映する「広告のショールーム」としても知られる。かつてはアップルの伝説的CM「1984」もこの枠で放映された。
今年のスーパーボウルでは、これまで一度も登場しなかった老舗のCMが話題を呼んだ。1877年創刊の米国を代表する新聞の一つ「ワシントン・ポスト」だ。テーマは第一面のロゴ下に常に掲げているスローガン“Democracy Dies in Darkness(民主主義は暗闇に死す)”。
国中がお祭り騒ぎの最中に、CMは重い内容を淡々と伝えた。画面は第二次世界大戦に始まり、公民権運動、テロ等、歴史上の大きな出来事を映像で振り返る。そしてその真実を伝えるために、犠牲となったジャーナリストの存在も同時に映し出す。昨年トルコのサウジアラビア領事館で殺害されたワシントン・ポストのコラムニスト、ジャマル・カショギはもちろんのこと、取材中にシリアで殺害された英国「サンデー・タイムス」紙の特派員マリー・コルビン等、他社やフリーランスのジャーナリストも含まれていた。
「真実を知ることが力となり、真実を知ることが判断材料となり、真実を知ることが自由を担保する」とナレーションを担当するトム・ハンクスは伝える。彼は政府の秘密を暴露した映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」でワシントン・ポスト紙の編集主幹を演じている。
「スーパーボウルは、民主主義に欠くことのできない世界中のジャーナリストの勇気と決意を知らせる最高の場所です」とワシントン・ポストCEO兼発行人のフレッド・ライアンは語る。「ジャーナリストは真実を伝えるために多大なるリスクを受け入れているのです」。
欧米メディアの多くでは、政府にとって不都合な真実があれば、忖度よりも、報道の自由を選ぶのが当然の姿勢なのだ。わざわざスーパーボウルの枠を使って伝えなければならないほど、米国のジャーナリズム界には危機感が蔓延している。
国境なき記者団が毎年発表する「世界報道自由度ランキング」の2017年版で、米国は前年からランクを二つ落とし、世界180カ国中43位となった。ちなみに年々ランクを下げ続ける日本は、中国共産党の影響力が強まる香港よりも一つ上の72位だった。