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母なる証明

日常という狂気を望む母の愛情物語


『パラサイト 半地下の家族』は相当心がゾワゾワした。その気持ちを深掘りするために、過去のポン・ジュノ作品『母なる証明』をアマゾンPrime Videoで観賞。


この映画は一言で説明するなら、息子(ウォンビン)の無罪を信じて奔走するキム・ヘジャ演じる狂気ともいえる母の無償の愛の物語ということになるだろう。だが、作品を通じて強く心に残ったのは、ストーリーよりも『パラサイト 半地下の家族』や『殺人の追憶』にも共通するポン・ジュノ監督の独特のキャラクター設定だ。


純粋無垢なように見える息子トジュンもその母も、ともに愛には満ちてはいるが、描き方が「愛」=「善」ではない。親子愛とはいえないほどの一線を越えた描写もある。二人とも大きな優しさと同じぐらい「邪悪」な部分も持っており、実社会で生活する我々と同じように薄汚れてもいる。これは映画に登場する全ての人物像に共通する。息子の友人ジンテは、親子をカモにしているが、異常なほどの協力もする。親子を幼い頃からよく知る刑事は、やる気のなさと母への優しさを同じぐらい抱えている。弁護士は母に冷たいように見えるが、落とし所はむしろ現実的だ。最大の被害者である女子校生にいたっては、ごく普通の女の子に見えるが、とんでもないほど大きな闇を抱えている。


ペドロ・アルモドバル監督も同様のキャラ設定で描くことが多いが、スペインという地理的な遠さもあって、どこか映画の中の出来事だと割り切って見ることができる。ところが隣国韓国のポン・ジュノ監督の場合、文化の共通項が多いこともあって、冷静には見れないほど生々しい感覚に包まれる。ポン・ジュノ作品は、芸術というよりも、エンタメ系作品であるにも関わらず、身近な人間に格付けなんてできないように、彼の映画を数字で評価することは難しい。つまり映画以上のリアルな魅力があるのだ。


エンディングもポン・ジュノ監督は独特だ。物語を終着点へは導かず、現実社会のように、都合の悪い事は忘れて、何もなかったかのように生活し続けることを選択する。真実はいつか突如明らかになるかもしれない。同じ生活圏内に犠牲者は何人も出ている。それでも母は、記憶という爆弾を抱えながら、可愛い息子とどう考えても不可能な「平穏な暮らし」に強引に戻ろうとする。


我々の日常も、冷静な判断とは程遠い狂気のバランスの上で成り立っていることを「母なる証明」は暗示しているのかもしれない。


監督:ポン・ジュノ
出演:キム・ヘジャ、ウォンビン、チン・グ他
2009年



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