2020年、明治神宮鎮座100年を記念して開催される「神宮の杜芸術祝祭」。新型コロナウイルスの感染を警戒して関連イベントの中止が相次いているが、「神宮の杜 野外彫刻展『天空海闊』」は無事にスタートを切った。なんだか難しそうな「てんくうかいかつ」という題目だが、ホームページによると「果てしなく続く空、快晴の空へ向かって、大らかに広がること」を意味するらしい。その言葉通り、日本を代表するアーティスト4人の作品を屋外で、おおらかに無料で体験することができる。
全ての作品が展示されているのは、参道沿いの神宮の杜の中。ここは「森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020-さまよえるニッポンの私」で空虚と例えられた皇居の森と並ぶ東京のサンクチュアリのひとつ。一般に立ち入り禁止とされている場所にそれぞれの作品は鎮座する。
おそらくそれぞれの作品に対しては「鎮座」という言葉を使うのがふさわしい。美術館のように仰々しくディスプレイして鑑賞するのではなく、ここではそこにいる神を奉るために作品が人工林の中で鎮座しているのだ。警備員が見張るわけでもなく、見るものの道徳心に任せて、狛犬と同じように作品はただそこに存在する。
偶然か、意図的なのかはわからないが、4人のアーティストが選んだモチーフは、全員「動物」だった。
名和晃平と松山智一は「鹿」、船井美佐は「馬」、三沢厚彦は「虎」。日本の自然や神話との親和性が高い「鹿」と「馬」は納得のチョイスだが、違和感を持って楽しめたのが三沢厚彦の“Animal2012-01B”。三沢独特の愛嬌ある白い虎が、神宮の杜にいると中国かインドの神の化身のようにも見えてくる。
皇居の森はロラン・バルトが「空虚」と例えたが、明治神宮には様々な人が出入りし、「空虚」どころか様々な思惑を感じざるを得ない。そこに「鎮座」する三沢厚彦の虎は「天空海闊」の持つもう一つの意味「度量が大きく、こだわりのないこと」を一番体現した彫刻だといえる。ここがインドであろうが、中国であろうが、東京であろうが、そんなことはどうでもいい。この虎は全てを受け入れ、全てを飲み込む。そして「果てしなく続く空、快晴の空へ向かって、大らかに広がる」三沢の虎はアートの垣根も超えており、神宮の杜に最もフィットしていた。
(2020年3月25日)