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ブラック・クランズマン

ブラッククランズマン

スパイク・リーはいつも怒っている。オン・オフ問わずに怒っている。そして、いつもわざと人目につくように怒っている。今年のアカデミー賞で『グリーンブック』が作品賞を獲得した時には、式をぶち壊すぐらいの勢いで怒っていた。普通成功者なら自分の作品が賞をとれなくてもニコニコ笑ってやり過ごすだろう。ここでも彼はわざと怒っていたはずだ。以前TIME(2018年8月20日号)のインタビューで彼は、成功した黒人について次のように語っている。「みんな現実を忘れ、もはや黒人ではないように振る舞い始める。思うのは勝手だが、白人は今でもあんたのことを『ニガー(黒人への蔑称)』だと見下している」。このメッセージをそのまま詰め込んだのが、スパイク・リーの最新作『ブラック・クランズマン』だ。


簡単に説明すれば、白人至上主義団体KKKに、黒人とユダヤ人の刑事コンビが潜入捜査する人種差別に関するストーリーなのだが、スパイク・リーが偉大なのは、シリアスに歴史の断片を突きつけるだけではなく、コメディーに仕立てたところだろう。青筋立ててがなりたてるだけでは、憎悪しか生まない。また、重大な問題に対して笑いで切り返すことは、アフリカ系米国人の最も得意とするところでもある。


もし世界が理性的に考えることができるのなら、ヘイトなんて存在さえしていないだろう。どの時代、どの地域でも世の中の99%を占める大衆は、常に不満も持っており、怒りのはけ口を外部に求めている。個人的な問題でさえ、問題の原因は自分の内側にあるのではなく、外部の社会にあるのだと考えがちになる。その怒りを利用しているのが1%の超富裕層だ。心底ヘイト感情に突き動かされている支配者層は、ほとんどいないだろう。彼らは、自分たちの名誉や富を守るために、99%の怒りを利用する。大衆心理を操作する上で、最も安易な方法が「ヘイト」や「差別」であり、その対象として、人種・民族・宗教・出自等が使われる。そして、そのヘイト・差別に侵されないための最大のワクチンが「笑い」なのだ。笑い飛ばすことで、余裕が生まれ、客観視できるようにもなる。


映画の中では『風と共に去りぬ』と『國民の創生』が引用されている。2本とも疑問の余地がないほどの名作だといわれているが、それは誰にとって名作なのかを考えさせられる。もしかするとあなたも「有色人種」であることを忘れているのではないだろうか。


1%に対抗するためには、まず清濁全ての情報を併せ呑み、どれが正しい情報なのかを客観的に捉える能力が必要になる。そのためにはメディアの力が大きな助けとなるのだが、最近では信用に足るメディアが少なくなってきた。そこでもう一つ頼りになるのが映画等のアートの力だ。アートは比較的ヘイトのウイルスが侵入しにくい。また仮に感染したところでそんなアートを心から楽しむ人なんてほとんどいない。


『ブラック・クランズマン』の設定を、日本に置き換えて考えてみると、思い当たることがいくつも浮かんでくる。米国にはスパイク・リーのように、怒り、笑い飛ばす知性が多く存在する。日本でも怒りを表現する人はいるかもしれない。しかし、笑いに転換してヘイトのウイルスを退治できる人がどれだけいるのか? とりあえず我々もワクチンとして『ブラック・クランズマン』を摂取しておいた方がいいだろう。


共同プロデューサーとして、これまた人種差別にサスペンスと「笑い」を盛り込んだ大ヒット映画『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール監督が参加。


監督:スパイク・リー
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー他
2018年



公式サイト

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