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This Mortal Coil / IT’LL END IN TEARS

水墨画のように儚いパンク

ディス・モータル・コイル It'll End in Tears,
This Mortal Coil,
1984
人は生きて死ぬ、無常の世界観をユニット名にもつThis Mortal Coil(ディス・モータル・コイル)。英国のインディー・レーベルだった4ADの共同創設者Ivo Watts-Russell(アイヴォ・ワッツ=ラッセル)の美学をもとに、固定メンバーを設定せず、まさしく「無常」をコンセプトとした音楽ユニット。

サウンドはゴシックの影響を感じるものの、様式美や構築的なイメージではなく、英国の宗教観と日本の無常感が一体化したような幽玄な世界。両国の神話にも近い感触がある。非常に穏やかな音ではあるが、パンクを経験してきた人達なので、狂気や暴力性も奥底に感じる。

ディス・モータル・コイルのサウンドに、最もダイレクトな影響をもたらしているのは、コクトー・ツインズの存在だろう。ヴォーカリストとしてエリザベス・フレイザー、ギターでロビン・ガスリーが参加したA2 “Song to the Siren”は、ディス・モータル・コイルを代表する曲となった。この曲のオリジナルはティム・バックリー1970年の作品。ディス・モータル・コイルはカバー曲が多いことでも知られる。おそらく、最も大切なのは、アイヴォの頭にある「美学」を達成することなので、そのための妨げとなる固定メンバーを避け、オリジナル曲にもこだわらず、理想に近い曲があるならば、迷わずパーツとして選択したのだろう。

エリザベス・フレイザーという素晴らしいヴォーカリストが参加しているにも関わらず、バズコックスやマガジンで活躍したハワード・デヴォートやモダーン・イングリッシュのロビー・グレイ、シンディトークのゴードン・シャープ等、曲ごとに個性的なヴォーカリストを採用した。特にハワード・デヴォートのA3 “Holocaust”は屈指の出来栄え。

またシンセ全盛の時代にヴァイオリンやチェロ、ヴィオラ等、クラシックの楽器も導入しており、エバーグリーンな作品を目指していたことが想像できる。

ポスト・パンク期に登場した、アイヴォ・ワッツ=ラッセルというクラシックの指揮者にも近い存在が作り上げたあまりにも美しい狂気の歌曲集。

Producer: Ivo Watts-Russell, John Fryer
1984年



GROOVE


Song To The Siren - This Mortal Coil
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