海外での評価が高い割に日本では一向に上映する気配のない映画『アメリカン・ハニー』をAmazonプライムで鑑賞。
物語は「スター」という名を持つ10代の女性を中心に動く。無責任な大人との関係にうんざりしていたスターは、ここではないどこかに行けば、人生が変わるのではないかと、ぼんやりとした希望を持つ。そんな時にスーパーマーケットの駐車場で見かけたのが、バンに乗って大騒ぎをする同世代の若者の集団。彼らに自由を感じたスターは、その中にいた一人の男性のことが気になり、家を出て彼らについてゆく決意をする。
バンには、定員オーバー気味で、若者たちがぎゅうぎゅう詰めに乗っていた。米中西部を移動し、行く先々の街で雑誌の購読販売をしているという。彼らを取り仕切るのは「クリスタル」という女性。彼女は同じバンには乗らず、別の車でグループを先導していた。
ルールを無視し、人生を謳歌しているように見えた若者たちだったが、彼らもまた、何か問題を抱え、居どころを失い、家を飛び出してこの集団に参加したのだった。しかし結局、誰かの支配下に入り、管理されて生きる以外の方法を知らなかった。
おそらく教育も経済力もない彼らが、真に元の生活から脱出できる可能性はほとんどない。自由を求めて家を飛び出したものの、現実はこのぎゅうぎゅう詰めのバンの中。逃げようと思えば、いつでも逃げられるが、行くあてもない。バンは社会の象徴。ここにもルールがあり、故郷にいた時と大して変わりはない。それでも毎日、バンは移動する。何かが変わったような錯覚だけで、なんとか毎日をやり過ごせる。
監督は英国人のアンドレア・アーノルド。過去には『アメリカン・ハニー』を含めカンヌ国際映画祭の「審査員賞」を3度受賞した以外に、初期の作品でアカデミー賞短編実写映画賞を受けたこともある。主演のサシャ・レーンをはじめ、出演者の多くは実際に旅の途上で出会った若者を起用したという。ちなみにクリスタル役のライリー・キーオは、エルヴィス・プレスリーの孫。
街から街へと移動しても、精神的にはどこにも移動していない、現実社会の写し鏡のようなロードムービー。
監督:アンドレア・アーノルド
出演:サシャ・レーン、シャイア・ラブーフ、 ライリー・キーオ他
2016年